お店へ送迎は滅多にしない俺でしたが、その日は台風でお店が
余りにも暇なので「早上がりするから。」と彼女から連絡がありました。
店の近くに車を止め待っていると、彼女が傘をさし手を振りながら
やってきました。ところが彼女の前に、マンガのような中年男性が現れ
雨の中で土下座を始めました。彼女は男性を抱えて起こし、困惑の表情で
5分程話すとその人に傘を渡して車に掛け込んできました。
どう言う事情であれ、客との関係に一切、感知しない主義の俺は無言で
車を走らせました。1つ目の赤信号で彼女の方から切りだしました。
「あの人、長崎から毎週来る人なんだけど…」と言葉を詰まらせ泣きました。
お客のことでこの子が泣くなんて!とビックリしました。
彼女は「来週、長崎に行って来る…。」と予想外の発言をして、
そのまま黙り込んで、俺から顔をそむけ、窓の外ばかり見ていました。
3日後の朝、彼女は大きなカバンを持って長崎へ向いました。
彼女が玄関先で何秒か立ちすくんでるのが、寝ている俺にも分りました。
2日後、帰ってきた彼女は「どうして、何も聞かないの!」と激怒しました。
「君の考えで行動した事に意見する事は何も無い。」と答えました。
この日から彼女は俺に対し冷たくなりました。

翌週、彼女と買い物から一緒に戻り、駐車場に車を入れようとしたら、
目の前に男が立ち塞がりました。「車入れたいんで、そこを…!」
立っていたのは長崎の土下座男でした。
「●●●さん!どうしたのよ!何やってんのよ!止めてよ!」と
彼女が土下座男の袖口を揺すりながら言いました。
男は「彼女と別れて下さい。」と得意技?の土下座を始めました。
「あんた、何考えてんの?邪魔やから、どいてくれや!」と言うと
土下座男は「キサンのせいで!この子は!」と大声で叫ぶと、
彼女の制止を振りきり、何故かマイナスドライバー?を片手に、
迫力の無い腹の出た体で、涙目になり足をガタガタと震わせながら
必死で襲いかかってきました。取っ組み合いになり、急所を蹴り上げると、
土下座男はその場で蹲って大声で泣き出しました。余りにも不憫に感じて、
「あんた、何がしたいんや?」”情けなさの塊”になった男に声を掛けました。
男は、「彼女はアンタば好いとる。けど、結婚でけんちゅイイよる。」と
言うので「あんたに関係ないやろ!女の話を何でも鵜呑みにするな!」と
カッとなって切り返しました。彼女を呼び寄せ、男にもう一度声をかけ
「あんたの惚れたこの子の名前を言うてみぃよ?」と言うと
男は「バカにしとんのね!●●ちゃんやね!」と自信満々に答えました。

俺は彼女に「君の本名は?」と問いかけました。彼女は戸惑いながら、
「○○谷 ○○代」と答えました。
「あんたが惚れたのは”●●ちゃん”でココにいるのは”○○代”」
「俺が付き合っている、この子は○○代。」と伝えると男は暫く絶句して、
「そんなのヘリクツや。同じ子やなかね。」と俺を睨みつけました。
「お店の子に苗字があるか?この子にはちゃんとあるよ。」
「源氏名をいくらココで言うても、その名前はお店の中だけの話や!」
こう言う思い込みの激しい人がストーカーなんだと、始めて分りました。
「長崎にも来てくれたし、なぁ、●●ちゃん!言うてやって。」と言うので
仕方なく「おっさん、長崎に来てくれって、幾ら払ったんや!」と言いました。
彼女が驚いた顔して、こっちを見ながら「50万・・・。」と答えました。
男はそのまま立ち去りました。その後、彼女は俺に
「知ってたの?お金の事?」と聞くので、「知らんかった。」と言いました。
「おごれよ!お前!」と機嫌の直った彼女に冗談を言いながら、
正直、本気で会いに行ってたら・・・どうしよーと思いました。(藁
後日、彼女から、土下座男は”大好きなお父さん”に似ていたので、
どうしてもと頼まれて、断りきれなかった、可愛そうで。と告白されました。
風俗嬢の大半が、割り切って仕事する事に努めていると思いますが、
人間ですからタマに魔がさし、心が動く時があるみたいです。
でも・・・お父さんと普通、体の関係は無いよなぁ?(藁