「はーい皆さんこんばんわーっ! 今週もまたやってきました、皆様ご存じのこのコーナー。今宵のゲストはいったい誰か、そしてゲストは自分が芸能人であると証明できるのか。それでは行ってみましょう、『芸能人はオナラが命』!」

 ハイテンションなアナウンスに続き、スタジオにコーナーのBGMが流された。拍手と歓声が巻き起こる中、司会の女子アナがマイクを片手にぺこりと頭を下げる。

「はーい、ありがとうございます。いやー皆さんノリがいいですねー。不定期開催のこのコーナーも、いつの間にやらもう四回目。これも一重に皆さんの熱心な応援のおかげです。かく言う私もこのコーナーのファンでして、自分が番組を持っているうちにこうしてまた担当できるなんて、もう感激しちゃってます」

 整ったルックスと確かなしゃべりで人気を集める彼女は、まだ入社二年目の若手だ。しかし進行の内容はきっちり着こなしたスーツと同様によどみなく、視聴者や観客をぐいぐいと番組に引き込んでいく。

「タマちゃん、能書きはいいからさっさと始めようやぁ。お客さんかて別にあんたのコトが見たくてここに来てるんとちゃうんやでー」

 番組のレギュラーメンバーである女芸人が入れる茶々に、会場がどっとわいた。かたや二十代前半の清楚・真面目系女子アナ、かたや三十過ぎの遊び人系女芸人。プライベートでは仲の良いこの二人の掛け合いは、この番組の一つの華だ。
 女子アナが口を尖らせて何か言い返し、それを女芸人が混ぜっ返す。それに観客が乗り、場の盛り上がりを作っていく。

「分かりましたよう、それじゃ勝手に進行させてもらいますっ」

 軽く頬を膨らまして会話を打ち切り、女子アナは手元の原稿に目を落とした。

「それじゃまず、ルールを確認しますね」
「おーおー、早よせいやー」

 野次を飛ばす女芸人を軽くにらみ、女子アナは続ける。

「これからゲストの芸能人一人と、一般人三人にスタジオに登場してもらいます。芸能人はずばり『オナラが命』、一般視聴者の男性におならの匂いを嗅いでもらって、四人の中から芸能人は誰かを当ててもらうというゲームです。見事自分が芸能人であると当てさせることができたゲストには、こちらの豪華賞品を差し上げまーす♪」

 台車に押され、豪華客船で行く海外旅行券が運ばれてきた。拍手で迎える観客に、女子アナはさらに説明を続ける。

「なお、外れた場合は賞品は抽選で選ばれたスタジオのお客様一名にプレゼントとなります。ちなみに男性が途中でリタイアした場合は、恐怖の罰ゲームが待っていまーす。楽しみですねー♪」

 一際大きくなった拍手に満面の笑みで応え、女子アナはよどみなく番組を進める。

「それでは最初に、今回ゲストのおならを嗅いでもらう男性視聴者に登場してもらいましょう。どうぞー♪」

 場内が暗くなり、スタジオ端の入り口にスポットライトが照射した。同時にスタジオ中の視線が、独特の熱を持ってそちらに集中する。
 司会の女子アナ、番組レギュラーの女芸人と若手アイドル、そして百人の観客、場内にいるのは全て女性だ。この後に登場するゲストの芸能人や一緒に出てくる三人の一般人も女性。
 女ばかりのスタジオの中に、特注のセットごとADに押され、ただ一人の男性が入ってこようとしていた。
 セットは正面から見ると「凸」の字に似た形をしている。上段は長さ二メートルほどの四角い筒になっていて、ちょうど人間一人が中に入って横になれるだけのスペースがある。
 ただし頭の部分だけは三十センチ四方ほどのボックスになっていて、クリア素材の張られた頭頂側からは中の様子を見ることができる。天井側には丸い穴が開けられ、*型の切り込みが入れられたゴムの蓋がはめ込まれている。
 ゲストはお立ち台になったセットの上でカメラに背を向け、ボックスの上に腰を下ろしてゴム蓋から尻だけを中に入れる。そして真下にある男の顔に目掛けて放屁し、匂いを嗅がせるという寸法だった。これなら、会場からはゲストは丸わかりだがボックス内の男には分からず、さらに放たれたガスは密閉されたボックス内に充満するためにスタジオ内に臭気が漏れることもない――そういう作りだった。
 今回、中に入っているのはまだ若い男のようだった。口は粘着テープで塞がれ、目にはアイマスクをかけられている。そのせいで顔はほとんど分からなかったが、まだ少年と言ってもいいような若さに見えた。今まではSMクラブやAV会社からそういう「人材」を回してもらっていたが、何でも今回はゲストの所属する事務所が男を手配したらしい。
 とはいえ、事務所の手続きは済んでいるのだから問題はないだろう。特に気にせず、女子アナは渡されていた資料を読み上げる。

「ぇー、今回の男性は自他ともに認める匂いフェチで、匂いをより純粋に感じるために、口と目を塞いで鼻だけを出している、と言うことです」

 歓声と拍手が、その心意気に応えた。驚いたように頭をもたげ、少年が否定するように首を振る。しかし声のない彼のリアクションを気に留める者は誰もいなかった。
 少年が身動きして上にしゃがむゲストが転んだりしないように、彼の体はセットの内部に厳重に縛り付けられている。しかしそれは別にテレビには映らないし、特に気にすることはないと女子アナは判断した。会場の盛り上がりに満足し、彼女はテキパキと指示を出しセットをスタジオの真ん中に固定する。

「あ、あのぅ。あたし、やってみてもいいですかぁ?」

 番組レギュラーの一人がそう言って手を挙げたのは、セットの設置が済みゲストをスタジオに入れようとする時だった。

「何やミーナぁ、抜け駆けかぁ? 図々しいで?」

 女芸人に突っ込まれ、年齢が彼女の半分ほどしかないそのアイドルはバツが悪そうに椅子の上で身を縮めた。

「まぁまぁ、若い子相手だからって意地悪しちゃダメじゃないですか」
「何やてー」

 軽いやり取りで流れをつかむと、女子アナはにこやかにアイドルに視線を向けた。

「どうしました、ミーナさん? やってみたいですか?」
「ぁ……はい。あのぅ、実はさっきからずっと我慢しててぇ、お腹が張ってて苦しいくらいなんですよぅ。でも本番中に、スタジオで出しちゃうなんて恥ずかしいしぃ」

 女子アナのフォローに気を良くしてか、そのアイドルはあっけらかんと言い放った。
 年齢より幼く見える童顔に、服の上からでも分かるアンバランスなほどの巨乳。グラビア界の新星として一年前にデビューし、今は同世代のアイドル数人と音楽ユニットも結成している。
 天然系のキャラで売っているだけあって、言動には突拍子もないものが多い彼女だが、まさかこの場でこんなことを言い出すとはさすがに想定外だった。
 とは言え、これはむしろ嬉しい誤算だった。視聴率的にもおいしい展開だ。にっこり笑って、女子アナは快くこの申し出を承諾した。

「いいですよ、それじゃ特別に、ミーナさんのおならを嗅いでもらいましょうか」
「わーい、タマちゃんありがとぉ♪ きゃはは、一番乗りだぁ!」
「ちなみに昨日の晩御飯は?」
「ピザでーす♪ ユーナちゃんと、リカぴょんと一緒に食べに行ってぇ、ちょっと食べ過ぎちゃったんですぅ」

 ユニットを組んでいるメンバーの名前を口にし、アイドルは階段状になっているセットに上がった。
 前の日の夕食を質問するのは、このコーナーでは恒例のことだった。当然、前の日に何を食べたかによっておならの匂いは変わってくるからだ。これをヒントに、どの匂いが芸能人であるかを当てさせることになる。
 セットに上がると、アイドルはカメラに背を向け、少年の頭が収められているボックスをまたいだ。そしてスカートに手を入れてパンティを引き下ろし、ボックスに開けられた穴に腰を下ろす。
 その様子は、和式便器にしゃがんで用を足すのによく似ていた。ボックスのせいで少し腰が浮く格好になるが、尻を完全に穴の中に入れてしまえば、少年の顔に着座する格好になるだろう。
 気配に気付いてか、少年は顔を上に向けた。アイドルのヒップがゴムの蓋を押し開け、彼の眼前にぬっと突き出される。
 次の瞬間、「ぶーっ」という大きな音がボックス内に反響した。
 ボックス内部には小型マイクが仕込まれていて、おならの音を拾うようになっている。続けて聞こえた少年の呻きは、しかし湧き上がった観客の笑い声にかき消されてしまった。
 無防備な鼻の数センチ手前からいきなり大量のガスを浴びせられ、少年は粘着テープの奥で咳き込んだ。身をよじり、必死で顔をそらそうとする彼の上で、アイドルはさらに二発、三発とおならを浴びせかける。
 小柄な体のどこにこれだけ溜めていたのかと思うほど、大量のガスがボックス内に注ぎ込まれた。風圧で少年の髪が揺れ、大きな放屁音が観客の笑いを誘う。少年は左右に首を振り、降り注ぐ臭気から逃れようと身をもがいているように見える。
 四回にわたって放屁音を響かせ、アイドルはすっきりした顔でセットを下りた。彼女が腰を上げると、下に押し開けられていたゴム蓋はぴったりと閉じ、匂いがボックス外に漏れないようにする。観客の拍手に手を振って応え、アイドルは悠々と自分の席に戻った。

「いやー、豪快なおならでしたねー。それにしてもすごいヒントですよ、これは。これが芸能人のおならですよ、しっかり嗅いで、匂いの違いを覚えておいてくださいね?」

 客席の反応に気を良くしながら、女子アナは少年に話しかけた。
 密閉されたボックスの中で、少年はアイドルの残り香に身をよじっていた。外に漏れてはこないものの、彼の反応を見るに匂いは相当なものだろう。しかし今をときめく人気アイドルのおならを嗅げたのだから、多少臭いのは我慢してもらわないと。
 苦悶する少年には構わず、女子アナは番組を進めた。

「それではお待ちかね、いよいよ今夜のゲストの登場です。どうぞー!」

 場内が暗転し、スタジオ奥の花道にライトが当てられた。明るいBGMをバックに四人の女性が入場してきて――最後に登場した一人の姿に、客席からきゃーっという黄色い歓声が上がる。
 すらりとした長身、スレンダーながらバストとヒップの発達した完璧なプロポーション、豊かな栗色のロングヘア、抜けるような白い肌。細面の整った容貌に輝くような笑顔を浮かべ、観客席に向かって手を振る――
 姫神カレン、二十三歳。レースクィーン、グラビアアイドルを経て、今は女優業や歌手としても活躍しているトップアイドルだ。今年出した写真集は三百万部を超える空前のヒットとなり、今や日本中で彼女を知らない人間はいない。
 想像を上回るビッグネームの登場に、スタジオは興奮と熱狂のるつぼになっていた。その熱気を涼しい顔で受け流し、カレンは用意された椅子に座って長い脚を組む。
 イタリア人と日本人のハーフというだけあって、そのプロポーションやルックスは日本人離れしたものを持っている。加えて日本人である母親が旧華族の出自であることも手伝って、その物腰には洗練されたノーブルな気品が漂っていた。
 それまで歓声を集めていた女子アナやアイドルも、彼女の登場によって一気に色あせてしまったように見えた。正真正銘のスターの登場に、場には独特の熱気が立ちこめていく。

「いやー、すごい人気ですねー。まさかこの人がこの番組に出てくれるとは。よく事務所がOKしてくれましたねー」

 歓声が鎮まるのを待って、女子アナは進行を再開した。カレンほどの国民的スターになると、下手をするとこの歓声だけで気付かれてしまう可能性がある。普通のゲストと同じように接しなければならない。

「それじゃまず一番の方から。昨日の夕食は何でしたか?」
「焼き肉です」

『25歳:OL』と書かれたパネルを手に、一番の女性が答えた。肉類を食べた後は匂いがきつくなる。観客もそのへんは心得たもので、くすくすという忍び笑いがそこかしこで漏れた。

「お次は二番の方。昨日の夕食は?」

 二番手は十代の女子校生だった。派手目なギャル系のメイクを施し、カメラに向かってピースサインを飛ばしている。

「あはは、ギョウザでーっす。今日のために気合い入れて、ニンニクとニラとたっぷり入れて食べて来ちゃいましたー♪」

 このコメントに、笑い声が大きくなった。一人目に引き続き、二人目もわざわざ匂いの強いものを食べている。その上でカレンのおならを嗅ぎ分けなければならないのだから、今日の少年は大変そうだ。
 三人目は和服姿の三十過ぎの女性で、銀座の名店でホステスをやっているということだった。直前の女子校生とは対照的に、彼女はしっとりとした声で質問に答えた。

「ええ、昨日はお寿司をいただきました。ただ、ここ二、三日便秘気味なので――ちょっと、匂いは強いかも知れませんけど」

 上品に言い放たれたその言葉に、また会場には忍び笑いがもれた。便秘によって腸内で凝縮されれば、ガスの臭気はまた一段とはね上がる。しとやかな外見に似合わず、ホステスはかなりえげつない行為を少年に強いようとしているようだった。
 そして、それは四人目のカレンも同様だった。

「最近はお肉ばかりで――昨日はサーロインステーキを食べました。……それに、私も最近ちょっと、便秘気味で」

 そう言って傍らのホステスと顔を見合わせ、にっこりと笑う。トップアイドルの生々しい告白に、場内の熱気はさらにはね上がった。

「それでは、そろそろ始めましょうか。まずは一番の方、どうぞー」

 女子アナにうながされ、一番のOLが立ち上がった。

                             ◇

 ヒールの音を響かせ、OLはセットの上に上がった。スカートに手を入れて下着を引き下ろし、真下にある少年の顔目掛けてぐっと腰を沈ませる。
 ボックスの蓋を凹ませ、顔に着座するすれすれまでOLの尻が迫る。見えないながらも気配を感じ、顔を背けようとした彼の上で、「ぷぅーっ」という音が響いた。
 生温かく、どこか粘りけのある空気が、ボックス内に送り込まれた。ユーモラスな音と、彼女の下で身もだえする少年のギャップがおかしかったのか、客席からはゲラゲラという笑いがもれた。
 アイドルの大量放屁で、ボックス内の空気はもう大分薄くなっているはずだ。そこに注ぎ込まれた濃密な臭気が、少年の鼻に相当な苦痛を与えていることは想像に難くない。そしてその余韻も冷めやらぬうちに、二人目の女子校生がセットに上がる。
 パンティを引き下ろして尻をむき出しにし、ボックスの中に押し込む。焼けた褐色の肌と生白いヒップの対比がなまめかしく、外見に似合わない妖艶な色気を漂わせる。
しかし、その肛門から放たれたのは「ぶびびびびぃっ」という何とも下品な音だった。
 露骨に排泄行為を意識させるその音に、盛り上がっていた客席も一瞬引き気味になる。「んーっ!?」という少年の声がスタジオに響き、さすがに何人かは彼に同情するような視線を向けた。
 しかし、当の女子校生はまるでお構いなしに、「きゃははは、たのしーっ♪」などと言いながら放屁を続けている。汚れた音と匂いを真下にまき散らし、自分と同年代の少年を容赦なく苦しめる。
 目を開けていられないほどの刺激臭が、ボックス内に満ちていた。OLの出した匂いとはまた別種の、そして強烈な汚臭。この時ばかりは、アイマスクをしていたのは彼にとって幸運だったかも知れない。

「これまたすごいおならでしたねー。大丈夫ですかー? 意識はありますかー?」

 マイクを片手に、女子アナはにこやかに彼を見下ろした。動けない身をよじって苦悶する彼の上では、三人目のホステスがセットに上がり、和服の裾をたくし上げている。

「どうですか? これまでの二人の中に、ミーナちゃんと同じ匂いのするおならはありましたか? 匂いフェチということでしたから、もう目星はついてるかも知れませんね。それでもまだ二人目ですから、油断しないで頑張ってくださいね」

 息も絶え絶えの少年を婉然と見下ろし、ホステスはボックスをまたいだ。肉付きのいいどっしりとしたヒップが、彼を圧倒し、押しつぶそうとするようにボックスに押し込まれる。
 完全にボックスに腰を下ろしても、大きなヒップが穴の縁に引っかかるようで、彼女の尻が直接少年に触れることはなかった。リラックスした表情で腰を落ち着け、ホステスは肛門の力を緩める。
「ぷすぅーっ」という空気の抜けるような音が、静かにスピーカーから漏れ聞こえた。真上から降り注ぐその気流から逃れようと、少年は左右に首をよじらせる。
 しかし密閉されたボックスの中ではどこにも逃げ場はなく、ホステスは容赦なく腸内で凝縮されたガスを狭い空間の中に注ぎ続けた。苦悶によじる少年の動作は段々と弱々しくなり、ホステスのおならは彼に残された空気を徹底的に奪っていく。
 カメラに写る彼女の横顔が、かすかに艶っぽくゆがんだ。下腹にぐっと力を入れ、腹の中にあるガスを残さずボックスに注ぎ込んでいるようだ。少年の苦悶に混じり、マイクには空気の抜けるようなおならの音が絶え間なく響く。
 音こそ静かだったが、ホステスのおならは匂いもガスの量も前の二人を上回るものだった。すでに呻き声を上げる気力もなく、少年は悪臭の充満したボックスの中でぐったりと身を横たえる。
 すべてを出し切り、ホステスはほう、と息をついて重そうな尻を上げた。上品な手つきで着物の裾を直し、何事もなかったように台を降りる。

 そして――遂にと言うべきか、次はお待ちかねの姫神カレンの出番だった。
 すらりと伸びた長い美脚が、颯爽と階段を登る。形のよいヒップをくねらせ、カレンはカメラに背を向けてボックスをまたいだ。トップモデルの見事な立ち姿は、ただそれだけの動作でも充分絵にな
るものだった。観客の間から、ほう――っと感嘆するような声がもれる。
 その声に応えるようにかすかに笑みを浮かべると、カレンはタイトスカートに手を入れ、黒いシルクのショーツを引き下ろした。カメラの前にさらけ出された丸いヒップの、しみひとつない滑らかな曲線に、スタジオ中の視線が釘付けになる。
 そして彼女はためらいもなく、自分の下で息も絶え絶えになっている少年の顔目掛けて、そのヒップを沈ませた。
 気配に気付いてか、少年は弱々しく顔を上げた。物音のした方を反射的に見ようとしたのか、それとも頭上の穴に顔を向け、わずかでも空気を貪ろうとしたのかは分からない。
 が、その行動は彼をさらなる地獄へと突き落とす結果となった。
 深く沈められたカレンの尻は、真上を向いた彼の顔に着座し、正面から押し付けられる格好になった。尻の割れ目が鼻梁を挟み込み、空気を貪ろうとした鼻孔にはちょうどアヌスが押し付けられる。
 丸い尻肉が、むっちりと体重をかけて彼の顔を押さえつけた。何が起きたかも分からないままの少年の上で、カレンはぐっと下腹に力をこめる。

「ぅ――っ!?」

 少年の喉の奥から、くぐもった呻きがもれた。鼻孔と肛門が密着しているため、放屁の音はマイクには届かなかった。しかし少年の体は苦痛のあまり小刻みに震え、喉からは懸命の呻きがもれる。
 残された最後の力を振り絞って、彼はカレンの尻の下から顔をそむけた。一瞬、わずかに鼻が解放され、カレンの肛門から湿った音が放たれる。
 その瞬間、カレンは素早く自分の股下に手をやり、逃げようとする少年の顎を捕らえた。そして真上に向き直させて尻の下に敷き、自分のすぼみの奥にさらに深く、少年の鼻を食い込ませる。
 カレンの体に隠れ、その動作は観客からは見えなかった。何食わぬ顔で少年の顔に尻を据え、完全に抵抗の力を失った彼にずっしりと体重をかけ、カレンはありったけのガスをその鼻孔に注ぎ込んだ。
 その仕打ちは、すでにもう匂い責めというレベルではなかった。鼻の中に直接排泄されるような臭気は痛烈に嗅覚を犯し尽くし、少年は断末魔の痙攣に身を震わせた。
 嗜虐的な快感にうっとりと頬を緩ませ、カレンは徹底的に少年を痛めつけた。アヌスに伝わる彼の苦悶が、さらに彼女のゆがんだ恍惚を引き出す。
 完璧なプロポーションのせいか、M字に足を広げてヒップを少年の顔に据えたその後ろ姿は、まるでそうしたオブジェのような美しさがあった。トップアイドルのあられもない姿を目にしているにも関わらず、会場にはただカレンの美貌に対する羨望の溜め息がもれる。
 たっぷりと時間をかけて腸内のガスを出し終え、カレンは悠然と立ち上がった。汗ばんだヒップが少年の顔から上げられ、股間から口元の粘着テープに向け、透明なしずくが名残惜しそうに糸を引く。
 少しはにかむような笑みを浮かべながらセットを下り、カレンは他の三人と並んでスタジオの中央に立った。興奮に頬を上気させ、女子アナがマイク片手に進行を再開する。

「いやー、みなさん凄いおならでしたねー。特に四人目は、お尻が顔の上に乗ってしまうという嬉しいハプニング。これは視聴者の男性も、匂いフェチ冥利に尽きたんじゃないでしょうか。それでは直接、本人に聞いてみましょうか。どうでしたかー?」

 ボックスにマイクを近づけてみたが、その声も彼の耳には届かなかったようで、強烈な匂い責めにさらされた少年はぴくりとも動かない。
 そんな彼の様子に、客席からはふくみのある忍び笑いが聞こえた。大袈裟に肩をすくめて見せ、女子アナは「どうやら嬉しすぎて声も出ないもようです」と彼の声を代弁する。

「それではさっそく回答に移りましょう。とは言っても口にはテープがしてますから、何番のおならが芸能人だったか、口で答えてもらうことはできないですね。それじゃ、これから私が順番に番号を言って行きますから、『芸能人だ!』と思った番号のところで、うなづいて下さいね。いいですかー?」

 少年は答えず、弱々しくかぶりを振った、ように見えた。
 しかしその動きは注意していなければ気付かない程度の微々たるもので、女子アナは彼の沈黙を了解だと思い、構わずに番組を進めることにした。

「それではまず――一番の方! どうですか、この方が芸能人だと思いますかー?」

 少年は答えなかった。臭気が充満し密閉されたボックスの中で、半ば失神したままなすすべもなく横たわっているだけだ。しかし目隠しと粘着テープで覆い隠された彼の表情に、苦悶を見て取る人間は誰もいない。

「答えがありませんねー。無回答ということで次に進みましょう。では二番の方、彼女が芸能人だと思いますか?」

 質問が続けられたが、少年は無反応のままだった。一番のOLに次いで二番の女子校生、そして三番のホステス――どの番号にも少年は反応を示さず、最後に姫神カレンの番になった。
 その頃になると、客席にはやや落胆の色が見えはじめていた。
 ここまで回答がなかったということは、四人目が芸能人であると少年が見破ったということだ。となると賞品の海外旅行券はゲストのものとなり、自分たちにチャンスが訪れることはない。
 それでも、姫神カレンほどの人気者になると、それも仕方ないとしか思えなかった。何しろ少年は、一度息継ぎをしてまで彼女のお尻に顔を埋め、おならを味わったのだから。

「それでは、一応聞いてみましょうか。どうですか? 四番が芸能人だと思いますか?」

 しかし予想に反し、少年の様子に変化は見られなかった。
 遅ればせながら会場の人間も、彼が半ば意識を失っていることに気付きはじめた。失笑混じりに質問を打ち切り、女子アナもカメラに向き直る。

「おや、これは……どうやら失神しているのでしょうか。やはり四人分のおならを嗅ぎ分けるのはなかなか大変なようですねー。……ええと、こうなった場合、あの、どうなるんでしょうか?」

 冗談めかした口調ながらも、スタッフを求めて視線をさまよわせる女子アナ。台本通りの進行ならばソツなくこなす彼女だが、少年が失神するという事態は想定外だったようだ。それでも百人を越す観客やゲストの手前、何とか事態を収拾すべく、必死で頭をひねる。
 そんな彼女に助け船を差し出したのは、他の誰でもなく姫神カレンその人だった。

「ねぇ、この子……このままだと、リタイヤになるんじゃないかしら?」

 その言葉に、場内のテンションは一気に高まった。とは言っても歓声や拍手が起きるわけではなく、どこか陰湿な、抑圧された喜びのようなものが漂い、その濃度を高めていくような、そんな空気が流れる。
 しかし、状況を打開するひとことであるのに変わりはない。提示されたその答えに、女子アナはぱっと顔を輝かせて飛びついた。

「そ……そうそう、そうですよね! リタイヤの宣言は出ていませんが、答えることができない場合は実質的にリタイアとみなしてもいいと思います! それじゃ一応、十秒間だけ待ってみましょうか。いいですか? いいですか? それじゃ、残り時間十秒ということで。会場の皆さんも、カウントダウンお願いしまーす」

 そう宣言すると、女子アナは片手を掲げた。そして指折りしながら、カウントダウンを開始する。

「じゅーぅ、きゅーぅ、はーち、なーな、……」

 百人を越す会場の女性たちの声が、女子アナの声にぴたりと唱和する。暗い期待と欲望を込め、カウントは進む。

「ろーく、ごーぉ、よーん、さーん、……」

 実際には十秒より短い時間。少年は変わらずに朦朧としたまま、ボックスの中で弱々しくもがいている。外の世界のやり取りが聞こえているのかは分からないが、それでも容赦なく時間は過ぎ去る。

「にーぃ、いーち、ゼロ! はい、残念リタイヤでーす!」

 女子アナの宣言に拍手が鳴り響き、場内がわっと湧いた。自らの提案が通ったことに気を良くしたか、カレンもこぼれる笑みを隠そうとしない。ボックス越しに喧噪が伝わったのか、少年は不安に駆られたように微かに身じろぎする。
 しかし、密閉されたボックスの中では外からの音も満足に聞こえない。朦朧とする意識も手伝い、自らの身にこれから降りかかる運命については、彼は察知していない様子だった。
 が、番組を進行させる上ではそんなことはお構いなしだ。極上のご馳走を見つけた子猫のように目を輝かせ、舌なめずりをしながら、女子アナは自らセットの上に歩を進める。

「はーい、残念ながらリタイヤということで、海外旅行券は没収になりまーす。ちなみに今回の芸能人はナンバー四番、アイドルの姫神カレンさんでした! 姫神さん、今のお気持ちは?」
「残念だわ、分かってもらえなくて。少し自信あったのにな」
「そうですよねー。カレンさんほどの有名人なら、普通の人は何となく勘で分かりそうなものですよね。ただ、今回は不正解ではなくあくまでもリタイヤなので、『おしおき』の対象となります」

 ヒールを鳴らしながら、女子アナはセットの上に立った。中くらいの背丈にバランスの取れたプロポーション。清楚なスーツに身を包みながらもにじみ出るような女の魅力は隠せない。カレンほどのトップアイドルに並ぶと見劣りするが、ルックスや性的魅力に関しては彼女もそれなりのものだ。

「それでは皆さんお待ちかね、リタイヤしてしまった者に与えられる『おしおき』の時間がやってきましたー。『おしおき』の内容は……皆さん、ご存じですよね?」

 花のような女子アナのスマイルに、客席は歓声で応える。歓声だけにとどまらず、早くも座席から腰を浮かせている女性の姿も見えた。客席だけではなく、ステージのこちら側ではあのアイドルや女芸人を初めとしたゲスト陣も喝采を送っており、いちように興奮した姿を見せている。

「はい、ありがとうございます。それではこれから『おしおき』として、彼には私たちのおならを嗅いでもらいまーす。……んしょ、んしょ」

 ボックスを後ろ向きにまたぎ、女子アナは少年の顔の上に立った。片手でマイクを保持しながら片手でスカートをめくり上げ、器用にパンティを引き下ろす。片足を上げてパンティを引き抜くと、淡いピンクの布地は足首のあたりに丸まって残った。

「それじゃちょっと失礼して、一番手は私が行きますね。ふふふ……それっ」

 嬌声を受けながら、女子アナはためらいもなく白いヒップを沈めた。ゴム製のカバーを押し開け、白桃のような丸い柔肉が少年の顔に迫る。相変わらず視界はきかないものの、間近に迫ったその気配に少年は身じろぎし、喉の奥で絶望の呻きをもらす。

「あはははっ、タマちゃんやらしいなぁー! もう濡れてるのと違うん?」
「ちょっと、黙っててくださいよー! んっ……自分のおならを実況するのって、何だか変な感じがしますね……あっ、出……る、出ちゃう! 出ちゃうっ!」

 次の瞬間、「ぷぅーっ」というユーモラスな音とともに、生温かいガスがボックス内に充満した。

「ぅぐっ」という微かな呻きが少年の喉からこぼれたが、もちろん耳を貸すものはいなかった。カレンの責めにより半失神状態に追い込まれたまま、空気を求めて浅い呼吸をくり返す彼の意識に、女子アナの放った粘りつくような放屁が覆い被さっていく。

「あーっ……気持ち、いい……っ! はぁ……ん」

 うっとりと表情を弛緩させ、恋人に囁くような甘い吐息をマイクに響かせながら、女子アナは腸内のガスを残らずひり出した。女芸人の茶々もあながち間違いではなく、嗜虐と排泄の入り混じった快感により股間はしっとりと潤み始めている。

「これは……いいですね、皆さんもきっとやみつきになりますよ。……ふぅ、すっきりした♪」
「ほな、次はウチの番やなぁ」

 立ち上がった女子アナを押しのけるようにして、女芸人が台上に立った。三十歳を超えている彼女だが、モデル経験もある肢体はプロポーションも抜群で、スレンダーな中にも年相応に熟れた女体の曲線が見て取れる。特にヒップは90センチ近いボリュームながらきゅっと引き締まり、二十代の女子アナにはない匂い立つようなフェロモンが漂うようだ。

「何やタマちゃん、くっさい屁ぇこいたんやなぁ。こっちまで匂ってくるようやわぁ」
「もー、ひどいですよぉ。それじゃ私は、お客さんの整理に回りますね」

 言い合いをしていても、二人の間に険悪なムードはない。同じ楽しみを味わう共犯意識のようなものが、独特の一体感のようなものを生み出している。
 そしてそれは、この会場全体に関しても同じだった。
 この『おしおき』には、番組出演者だけではなく、スタジオにいる観客たちも参加する権利がある。客席に詰めかけた百人の若い女性たちも、待ちきれないといった様子で続々と席を立ち、少年の元に詰めかけようとしているのだ。

「ふふ、頼むでぇ」

 薄笑いとともに女子アナを見送り、女芸人はボックスをまたいだ。
 パンティを引き下ろし、まるで便器に腰を下ろすように尻を沈める。ゴムの蓋を押し開け、さらに深く腰を沈めると、むっちりとした尻は懸命に身をよじり顔を背けようとする少年の上に着座した。
 すかさず、彼女は自分の股間からボックス内に手を差し入れた。突然のしかかってきた尻に困惑する少年お顎を無造作につかみ、強引に真上を向かせる。

「んむぅ――っ」

 ステージの内側にいた彼女は、姫神カレンが少年に強いた仕打ちを目撃していた。その再現だ。なまめかしく淫靡な色香を漂わせる丸いヒップが、その割れ目に少年の顔を挟み込み、柔らかな窄まりで鼻孔を捕獲する。

「ぁはっ――」

 逃れようもない体制から、強烈なガスが少年の鼻に炸裂した。生温かく湿った汚臭が、脳髄を直接犯すように嗅覚を埋め尽くしていく。少年はぴくんと身を震わせ――そして、抵抗する力もなくぐったりと動かなくなった。
 カレンの責めによりとどめを刺されたところに、更に地獄へと突き落とすような追い打ち。嗜虐の快感に女芸人の口からは歓喜の息がもれ、股間にはじわりと熱い蜜が沁み出す。
 それでも、残念なことにゆっくりとその余韻を楽しんでいる暇はなかった。何しろ後が詰まっている。
 何食わぬ顔で立ち上がり、彼女はパンティをはき直した。後ろを振り向くと、女子アナが詰めかけた観客の整理に大わらわになっている。
 百人の観客のうち、既に三十人程度がステージに上がっていた。残る七十人はにやにや笑いながらステージ上に目を注いでおり、何人か立ち上がってこちらに向かおうとしている者もいる。
 年齢層は十代後半から三十代前半といったところか。カレンというビッグネームの責めを生で見ることができたせいか皆興奮し、これから始まる嗜虐の予感により、会場は陰湿な熱気に満たされている。
 少年は匂いフェチと聞いているからまぁ大丈夫だろうが、これは大変なことになりそうだ、と思った。しかしそれも彼が招いた事態なのだから仕方ない。股間の奥にうずく熱に名残惜しさを感じながらも、女芸人はセットを下りた。――どこか人目につかない所に行って、早く自分でこの興奮を鎮めなければ。
 そして間を置かず、一番乗りで押し寄せた観客の女性が、パンティを引き下ろしてボックスに尻を据えた。鳴り響く放屁の音の下、少年はもう弱々しく身をよじることしかできない。
 その後も次々に押し寄せ、セットに上がり、ガスを注ぎ込んでは去っていく女、女、女。
 どこにも逃げ場のない三十センチ四方の牢獄の中で、少年はねっとりと生温かい臭気に包まれ、力なく悶え続ける――

「――はい、『おしおき』はまだ始まったばかりですが、そろそろ終了の時間となりましたー。姫神カレンさん、今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。とても楽しい時間だったわ」

 ガス責めを受け続ける少年の手前、ステージ上では女子アナとカレンが並び立ち、番組の締めを行っていた。二人の間からはボックスに閉じこめられた少年の頭が見え、OL風の若い女性の尻に敷かれている。

「いえいえ、こちらこそ! 今日はとっても楽しかったです。次回もまた、ぜひいらしてくださいね」
「そうね、こんなに楽しいとは思わなかったから――ふふ、やみつきになっちゃいそう。今度は観客として来ようかな?」
「あはは、カレンさんがお客さんにいたらびっくりですよねー。今日はこれからどうされる予定ですか?」
「そうね、ちょっとまだ、物足りないし――」

 言葉を切って、カレンは笑みを含んだ視線を少年に向けた。ボックス内は温度上昇と湿気によりもやがかかり、内部が見えづらくなっている。そんな中でまた新たな尻の下敷きになり、苦悶に身を震わせている少年。その光景に股間からじわりと熱い蜜がにじみ、カレンは思わず内腿を擦り合わせた。

「――全部終わってホテルに戻ったら、個人的におしおきしてあげちゃおっかな」
「うふふ、楽しそう。私もご一緒していいでしょうかぁ?」

 責められる少年の姿に、女子アナの目にも妖しげな光が浮かぶ。どこかもじもじと腰を引いた立ち姿を見ると、彼女も股間の疼きに悩まされているのだろう。

「何やタマちゃん、抜け駆けは許さへんでー。あたしも誘ってやー」
「はいはーい、あたしもぉ! ミーナも行きたいでーすっ♪」

 女子アナだけでなはく、追従してくるアイドルと女芸人。どちらも興奮に瞳を潤ませ、責められる少年に粘りつくような視線を送っている。やはり同じ女として、あの程度の責めでは満足できないということだろう。

「ふふ、そうね――それじゃ、後でみんなで楽しみましょうか」
「やったぁ! さすがはカレンさんやなー、話が分かるわぁ」
「それじゃあたし、ユーナちゃんとリカぴょんも誘ってみますね! 隣のスタジオにいるんですよー」
「はいはい、いいですか? 話はつきましたね? まとめちゃっていいですか?」

 話はまとまったようだった。収録時間もちょうど頃合いだ。華やかな笑みをカメラに向け、女子アナは自分の仕事に戻った。

「それでは会場の皆さん、ゲストの皆さん、ありがとうございました。『芸能人はオナラが命』、今週はこのへんで!」

 笑顔で手を振る出演者たち、途切れずにセットに登る女たち。
 その足下で尻に敷かれ、既にぴくりとも動かない少年の姿。
 それらを視界に収めながら、カメラはゆっくりとズームアウトしていった。