俺…小児麻痺の後遺症で普段は支障ないが、走ったりは苦手
彼女…俺の彼女。犬(メス)の飼い主
A子…近所の中学生

俺と彼女はとある愛犬サークルで出会いました。
その後うちの犬はもう天寿をまっとうしてしまい、あらたな犬を飼う気になれず
彼女んちの犬ココア(メス)を二人で可愛がることで満足してました。
ココアは偶然俺と同じ方の足が悪く、それも親近感を覚えるゆえんではあった。

でもココアがある日盗まれました。
俺と彼女とで尋ね犬のチラシを作り、町内会にかけあったり
電柱にチラシを貼らせてもらったり、郵便局員さんを訪ね歩いたりして
四方八方手をつくしたが、連絡はありませんでした。

彼女の友達が「新しい犬を飼えば気がまぎれるかも」と
何度も元気づけに来てくれたが、
なかなか新しい犬に気持ちを切り替えられないっていうのは俺も同じタイプだから
二人で丁重に断って、しばらくそっとしておいてもらった。

一か月半くらいした頃、近所のA子に呼び止められた。
今はもうぜんぜん交流ないが、俺が大学生の頃にA子は小学低学年?で
親同士が知り合いだったから、うちにA子が来たときはゲームしたり
レアアイテムあげたりしていた。

A子「犬いなくなったんだって?」
俺「そうなんだよ。チラシ見た?どっちかっていうと年寄りだから心配なんだ。
なんか情報あったら教えてくれな」
A子「その犬どこにいるか知ってるよ」
俺「え!!?」

A子が言うにはココアは近所の家に保護されているとのことでした。
足が悪い子だから知らない人が見たら保護したくなって当然かもと思い
「どこの家か教えて!」とA子に頼むが
A子は「確かな住所を覚えてない。確認取れたら教えてあげるね」と言い
俺は携帯番号を教えてその日は別れました。

その晩からA子からメールが来まくり出したけど
ココアの情報はまったくなくて、全部雑談まじりのA子情報だった。
まあ中学生女子のノリなんてこんなものかな?と
適当に相手してスルーしつつ、ココア情報を待っていました。

でも待っても待ってもココア情報はなく、A子からのメールは
「そろそろ処女喪失したい」とか「パンツ見たくないか」とか
ヤバイ方向に進んでいきました。
俺としては、正直、ぜんぜん知らない女子中学生ならハァハァな気持ちもないではないが
子どもの頃から知っているA子は対象外だったし、
何よりココアの情報はどうした!?という気持ちがあって
だんだんA子の相手はしなくなっていきました。

ココア捜索開始から四か月目、これか?という連絡がありました。
外見の特徴、くせのある歩き方、たぶんココアに間違いないと思いました。
さっそく返信し、彼女と土日に向かいました。
その人に会って話し、情報を教えてもらい、該当の家を訪ねました。

でもその家にココアはもういませんでした。
流行りの犬種だからほしかったけど、なつかないし、好き嫌い多いし(年寄りで歯が悪いから)
びっこで見栄えも悪いから、保健所に引き取ってもらったと…。

血の気が引きました。
でもすぐ横でそれこそ倒れそうな彼女がいるから俺が倒れるわけにいかなかった。
話を聞いたらその家人が盗んだわけじゃなく、ココアを盗んだやつにもらったらしい。
ぶん殴ってやりたかったが、この家族が盗んだわけではないし
何も知らないようだったからその場は我慢して帰りました。

その後改めてその家を訪問し、話して、ココアをその家に引き渡したのは
そこんちの娘の同級生であるA子だということがわかりました。
A子んちに凸する俺と彼女。

A子んちに凸する俺と彼女。
しかしまったく話にならなかった。
A子は昔から俺のことが好きだったと言うけどだからってココアを盗んでいいわけがないし
彼女を指さして
「その女は足が悪い犬だの、足が悪いにいちゃん(俺)だのが好きなただのフェチ変態女だ!かたわフェチだ!」
とか言うし、A子母は
「びっこのくせに娘をたぶらかしたのか!」と話も聞かず俺にくってかかってくるし
彼女は「あんたらみんなおかしい!ココアは保健所で一人さみしく薬殺されたんだ!ココア返せ!!」
って泣くしで、俺も最後には泣きながら撤退した。
いろいろ言いたいことはあったがココアのこと考えたら言葉にならなかった。

ようやく落ち着いてからA子にメールした。
ココアはもうおばあちゃんだったこと。おばあちゃんなのに家族から引き離されて不安で
しかも保健所で一人で死んでいかなくちゃならなかったこと。
お墓も作ってやれなかったこと。
そして残された俺たちがココアを見送ってやれず、それがどんなにつらいことだったかということ。
とりあえずメールにして全部送った。

A子は何日か経ってからうちに謝りに来ました。
子どものころから俺が好きだったと言ってくれて、間を取りもつ犬がいなくなれば
彼女と別れるかもと思ったらしい。
ココアと俺の悪い方の足が同じことも「フェチ」と思わせる原因になったようだ。考えすぎだ。

A子は泣いて謝ってたし、俺もちっちゃい頃から知ってる子だし
許すべきなのかもしれないと思いました。
でもどうしても許せなかったから、本音を言いました。

「いくらA子が泣いてもココアは戻ってこない。もうA子も中学生なんだし
泣いても謝っても取り返しがつかないことがあることを知るべきだ。
おまえがやったことで、俺と彼女の家族が死んだ。お墓も作ってやれなかった。
俺たちはそのことを一生悔やんで生きていくし、そのことでA子を許せることは一生ない」
と言いました。
中学生の女の子に対してヒドイと言われるかもしれないけど

A子もそうまで言われるとは思ってなかったようで、固まってました。
うちの犬が死んだときは一緒に泣いてくれたA子だけど
そんなA子がなぜココアにあんなことをできたのか今でも疑問だ。

俺「もう二度と来ないで欲しい。どうしてもココアのことを思い出すし、俺もいつもそんなに冷静じゃない」
A子「ごめんなさい。まさか死ぬとは思わなかった」
俺「でもココアを家族から引き離したのはわざとだよな?何度も行ったけどココアはおばあちゃんだった。
なんで家族と一緒にもうちょっと過ごさせてくれなかったんだ」
A子「うち犬飼ったことないから…」
俺「うん、もういい。帰って」

その後A子母がうちに
「娘を泣かせたのか!」
と俺のいない日に怒鳴りこんできたらしいが
俺以上に犬好きな両親が(話は聞かせておいた)が撃退し
同じく犬好きだったらしいA子父がA子母とA子を説教してくれたらしい。

犬猫以外にはもてたことのなかった俺の最初で最後だろう修羅場が
ひどく後味悪いものだったって話です。

おわり。
しえんありがとう。