自分達が通っていた高校は、わりと校則がゆるかった。
だから入学後に、スカートの丈を短くする女子はどんどん増えていった。
女子高生の短いスカート姿は、それまで生きている中で何度も見てきている。
きっと当り前のことなんだろうなと思い、特に気には留めなかった。
だけど、自分が入学してから2カ月後の6月。
クラスメイトのTさんまでもがスカートを短くしたときは、さすがに驚いてしまった。

いくらゆるいとはいっても、当然ながら校則に一応の基準はある。
スカートの長さについても、きちんと膝丈と決まっていた。
Tさんは小学校も中学校も、自分と同じ学校に通っていた。
宿題を忘れた事が一度もない、とても真面目な性格の女の子だ。
そんなTさんが、膝小僧がきれいに見えてしまう長さのスカートを履くようになった。
真面目のかたまりのようなTさんが、自分から校則違反を犯すなんて。
少なからずショックを受けたのを、よく覚えている。

Tさんは服装検査がある日だけは、きちんと膝丈まであるスカートを履いて登校してきた。
でも検査がない日のTさんのスカートは、いつも膝が丸出しになる長さだった。
高校入学後に内面の変化があって、Tさんの中で何かが変わってしまったんだろうか?
けれどもTさんの日常の生活ぶりを見る限り、表面上は何も変わっていないように見えた。
生真面目で、他人には優しくて。
不思議に思い続けてはいたものの、改めてわざわざ尋ねるのも何となく気がひける。
そんなこんなでTさんに理由を聞けないまま、時はただただ過ぎて行った。

そして半年が経って、12月。
寒い寒い冬がやってきた。
そんな寒い日々の生活の中でも、女子生徒達のスカートは短いまま。
Tさんも同様に、膝が丸見えになる長さのスカートを履き続けていた。
そして、掃除当番でTさんと一緒になったある日のこと。
別館の階段を掃除しているTさんが、寒そうにしながら言った。

「冬ってヤだな…。脚が寒くて毎日がつらいよ…」
そりゃ、膝小僧を丸出しにしてれば寒いに決まってる。
余計なお世話かとも思ったが、自分はTさんに提案してみることにした。

「寒いならスカートをもうちょっと長くしたら?結構違うんじゃない?」
「うん…それはわかってるの。でも、無理かも」
「無理?どうして?」
「どうしてって言われても…。どうしても」
「だって脚が寒いんでしょ」
「うん…。寒いよ」
「我慢しないで、長いの履けばいいじゃん」
「でも…」

何やら煮え切らない様子のTさん。
そんなTさんの態度に、情けないことに自分はイライラっときてしまった。
そして自分は若干キツい口調で、Tさんに言葉をぶつけた。

「結構前から思ってたんだけどさ。そのスカート、はっきりいってTさんらしくないと思う」
「え?」
「だってさ。どっからどう見ても校則違反でしょ、その長さ」
「…それは」
「僕の知ってるTさんは昔からずっと、とっても真面目で自分に厳しい人だった」
「え…」
「何かイヤなんだよ。Tさんが学校で短いスカート履いてるの。堂々と校則破ってるの!」

結構厳しい言葉を立て続けにぶつけたと思う。
今考えると、イラついたのはこの時のTさんの態度じゃなかったのかもしれない。
昔からずっと真面目だったTさんが、平気で校則を破り続けて何ともない顔をしてる。
そのことに、内心ずっとイラついていたのかもしれない。

「だって、だって…!」
自分が浴びせた言葉の暴力の数々で、顔をくしゃくしゃにゆがめるTさん。
そして。

「だってしょうがないじゃない!膝がくすぐったいんだもん!」
涙声の告白が、Tさんの唇から発せられた。

「え?くすぐったい?」
完全なる予想外の返答に、自分はしばしポカーンとなってしまった。
「うん…。くすぐったい」
Tさんはうつむくと、涙交じりの声で言葉を続けた。
「中学の頃は何ともなかったの。でも高校に入ってから急に、膝の裏に当たるスカートの裾の感触が気になってきちゃって…」
話しながら、Tさんの顔はだんだんと赤く染まっていった。

「友達と話してる時に、何回かスカートの裾に膝の裏をくすぐられたことがあって…」
「………」
「ピクってなっちゃったり、変な声出しちゃたりして。すごく恥ずかしかった」
「そういう…ことだったのか」
「寒さは頑張れば耐えられるからいいの。でも、くすぐったいのはどう頑張っても耐えられなくて…」
「そりゃ…そうだよね」
「わかってくれる…?服装検査の日に膝丈まであるスカート履くの、結構真剣に憂鬱なの…」
そしてTさんはしょぼん、と肩を落とした。
「私だって本当は、校則違反なんてしたくない…。だけどくすぐったくて、どうしてもガマンできないの…」

Tさんの告白を聞いた後、自分の心の中は罪悪感でいっぱいになった。
「ごめん。そんなに深刻な事情があったなんて全然知らなかった。本当にごめん。酷いこと言ってごめん!」
自分はTさんに深く、深く頭を下げた。
Tさんはハンカチで涙に濡れた目尻を拭うと、首を左右に振った。

「ううん、いいよ。むしろ、嬉しかった」
「嬉しい?どうして?」
「こんな私のこと、真面目だなんて。そんな風に見てくれてたなんて、全然知らなかったから」
そしてTさんはにこりと微笑むと、自分と同じように頭を深く下げた。
「ありがとう。私なんかをずっと見てくれていて」

ああ、よかった。
やっぱりTさんは、Tさんのままだったんだ。
安心すると同時に、Tさんのお礼の言葉がどうにも照れくさくて恥ずかしくてたまらなくなる自分だった。

そして。
「ね。もうすぐ期末テスト、始まるよね」
「え?ああ、そういえば」
「もし、もしよかったらでいいんだけど…」
「え?」
「次の日曜日、一緒に図書館で勉強したりとか、しない?」
Tさんはおずおずと、自分に向かって右手を伸ばしてきた。

予想外の誘いだった。
「どうして僕と?」
「だって○○君って…」
Tさんは目を伏せ、ゆっくりと言葉を発した。

「私よりもずっとずっと、真面目な人だから。そんな人と一緒に…」

差し出されたTさんの手を、自分は右手できゅっと握り返す。
「ありがとう。本当に…嬉しい」
Tさんの柔らかな右手の温もり。
それはTさんの心のように、とてもとても温かいものだった。

   ※   ※   ※

巷に溢れかえる、短いスカートを履く女子高生達。
彼女達の中にもTさんのように、膝のくすぐったさに苦しめられてきた子がいるのかもしれない。
そういえばTさんは1つ、大きな誤解をしてると思う。
だって自分がTさんより真面目だなんて、どう考えてもあり得る訳がないのだから。