先週、代休消化で平日が休みになったんで、娘を幼稚園まで送り届けた。

妻は「私が送るからいいよ」と言ったが、日ごろ子育てを丸投げしてる身としては、
たまに親っぽいこともしなきゃと。まあ、自己満足以外の何物でもないけどな。
娘も「なんでパパ? ママじゃないの?」という表情に見えた。気のせいかな。

ちょうと登園時間のピークだったらしく、園舎の前は結構な賑わい。
周りを見ると、子供を連れてきたのは8割方がママで、あとはお婆ちゃんか。
中には高齢出産の母親か若い祖母か、外見だけじゃ分からない女性もいたが。

父親は俺を含め数えるほど。イクメンって、言うほど浸透してないらしい。
男性はほとんどが通勤途中なのかスーツ姿で、子供を預けると足早に立ち去る。
共働きかシングルマザーか、園から直接仕事に行くっぽい母親も案外多かった。

園の入り口あたりで、子供同士が知り合いと思われる2人くらいから
「あら○○ちゃん(←娘)、今日はパパと一緒なんだ」と声をかけられた。
本当なら「いつも娘がお世話になって…」とでも言うべきなんだろうが、
コミュ障な俺は「ははは…ども」と半笑いで会釈するのが精一杯だ。

娘は友達を見つけると「パパ、バイバ?イ」と言い残し、子供の群れの中へ。
担当の先生に「よろしくお願いします」と頭を下げて外に出る。
園舎前では、ママさんたちが数人ずつのグループに分かれ、お喋りしてた。

女って、こういう所でも派閥を作るんだよな、と思いながらぼんやり見てたら、
大ざっぱに年齢別でグループができてるらしいことに気が付いた。
子育てに関する話題らしいが、やっぱり年が近い方が気が合うんだろうか。

俺の近くにいた5?6人のグループは、見たところアラサーが中心。
それなりにキレイ系というか、身だしなみに気を付けてる人が多い。
イメージキャラは眞鍋かをり…かどうかは知らないが、そんな感じだ。
うちの妻はこのグループかもな、と思ったが、とても入っていく勇気はない。

少し離れて見てると、集団の中に1人、男がいるのに気付いた。

20代半ばか後半くらいかな。背が高くスポーツマン風の男前。
平服だし俺と同じく非番かな、と思ったが、それにしちゃ他のママと親しげだ。
ごく自然に集団に溶け込んで、子育て談義に花を咲かせてる。
いわゆる主夫ってやつか? 失業中か? それとも夜の仕事か?

ママたちプラス1の集団が動き出したんで、さりげなくついて行ったら、
園の近くにあるファミレスに入って一角に陣取る。興味が湧いたんで、
俺も続いて入って、観葉植物の列を挟んだ近くの席に座った。

一行に俺が知ってる顔はいない。時間帯のせいか他の客は少なかったが、
ママ軍団は近くの席で新聞を読む(ふりをする)オッサンに興味はないようだ。

それとなく聞き耳を立てると、連中の話題は子育てから幼稚園への愚痴に移る。
特に「あの先生の態度が悪い」みたいな話だと大盛り上がり。
やっぱり女って、こういう陰口が好きなんかな。
うちの妻も普段は一緒になって盛り上がってるのか、と考えたら少し複雑だ。

例の男はといえば、普通に愚痴大会に参加してた。
やはり日常的に子供を送り迎えしてる父親らしい。いろんな家庭があるんだな。
ともあれ男は、とにかく聞き上手で話し上手。コミュ障の俺とは真逆だった。
たぶん学生時代から、合コンで重宝されてたタイプだろう。

そのうち話題は、おいしいランチの店やブランド物、芸能ゴシップへと広がる。
まったく女ってやつは…と呆れて店を出ようとした時、ママの1人が言い出した。

「でさあ、今日はどうする?」

「このところ空いてるのは…Aさん?」
「うん、私2週間くらいしてない」
「あたしも先週の月曜が最後だったよ」

さっきより明らかに声を絞ってる。俺は耳をそばだてた。

「2人までなら大丈夫だよ」

答えたのは例の男だった。いったい何の話だ?

「えーっ、私は1人がいいなー。集中できるし」
「そういえば昨日はBさん1人だったよね」

いきなり俺の名字が出てきて、思わずコーヒーを吹きそうになった。
ちょっと変わった名字だから、園に同姓の子供はいないと思うんだが…。

「Bさんは今日お休み?」
「旦那が代わりに来てたよ。なんかオタクっぽくてキモい男だったw」

そのキモいオタクが、ほんの2メートル先で聞き耳を立ててるんだが。
俺には全く気付かないらしく、ママたちの謎の会話は続く。

「でも、何気にBさんの回数多くない? しかも1人ばっかり」
「そうよね。今週だけで2回してるかも。もしかしてCさん、お気に入り?」

Cさんと呼ばれた男が困ったように答えた。

「そうでもないけど…。Bさんて激しいから、1人じゃないとキツいんだよね」

激しい? うちの妻が? 何のことか分からんが、普段はおとなしい奴だぞ。

「へー、溜まってんのかな?」
「らしいよ。旦那がポークヴィッツって言ってたし」
「うわっ、うちの旦那のも細いけど、そりゃ悲惨だわw」

俺がポークヴィッツ? 何のことだか、さっぱり分からん。

「大きさじゃないって言うけどさ、やっぱりフランクフルトが食べたいよねw」
「しかもBさんのとこ、ムチャクチャ早いんだって。最悪よねえ」
「だから僕の所に来ると最低3回。おとなしそうな顔して、凄いんだよな」

男が堪らないという感じで頭を振った。そう言いながら喜んでるようにも見える。

「そう聞くと気の毒だけどさ、でもやっぱり独占は良くないよね」
「だから、たまには旦那に代わってもらったんじゃない?」
「なるほどー。じゃ、今日はあたしと最低3回ね♪ 決定!」
「きゃ??っ! やだ???っwww」

最後、みんなで一斉に盛り上がる所だけ声が大きくなった。
結局、「2週間ぶり」というAさん1人ということで落ち着いたらしい。
観葉植物越しに見たAさんは、優香に少し似た可愛らしい奥さんだった。

一行に続いて支払いを済ませ、ファミレスを出ると、
男とAさんだけが他のママたちとは別方向に歩き出した。

電柱の陰から覗いたら、2人は園の駐車場に停めてあった高そうな車に乗り込み、
他のママたちに手を振りながら走り去った。Aさんの満面の笑顔が印象的だった。

よく分からんがAさん、あの男からフランクフルト3回分を
サービスしてもらうのが、よっぽど嬉しいらしい。

何だかポークヴィッツが無性に食べたくなった。