少し前で俺が高校生の頃の話。

小学校の時に親の仕事の都合で引越しをした。
他県への引越しなので転校しなければならず、
その時は、ただ寂しいだけの気持ちでいっぱいだったけど、
中学を卒業する頃には、
また元に住んでいた方へ戻れる事になった。
親は昔馴染んだ場所に戻れる事と、
もう転勤がない事を喜んでいたけど、
俺は子供心に
「そんなに何度も引越しをされても……」って思っていた。
せっかく仲良くなった友達とも
強制的に別れさせられるのは辛かった。
俺の高校入学に合わせて戻れる事になったので、
新しく住む場所に近い学校を受験した。

無事、合格して入学式の後、
教室で担任から明日以降の予定を聞かされた。
俺がいた中学から、
この高校を受験した人はいなかったから
見知った顔はほとんどいない。
だけど名簿などで
何人か見覚えのある名前がいて、後から確認すると
大体、引越し前に同じ小学校にいた者ばかりだった。
それは嬉しい発見だったけれど、
俺が転校して戻ってくるまで五、六年は経っているから
知り合いというのとも少し違う。
十歳くらいからの五年って大きい。

名前は知っていても、
皆、俺の記憶とは違った人間になっていた。
背も伸びていて外見も変わっているし、
性格も違っているのもいた。

同じクラスになったレイナも、その中の一人だった。
彼女は昔、俺の住んでいたマンションの近くに住んでいて
小学校低学年だった頃には同じ歳なのもあって、
よく遊んだりしたものだ。
だから最初に名前を見た時に、「まさか」と思ったけど
彼女を見た時には、その予想が外れたと思った。
外見が全く違っていたからだ。
俺の知っている彼女は明るいけれど比較的大人しくて、
周囲の和を大切にするような女の子だった。
子供にありがちな
意地悪とかイジメとかにも縁がないようなタイプ。
学級委員とかになったり、
旅行をするなら幹事をするようなタイプだった。

勇気を出して話しかけるのに二ヶ月かかった。
その頃にはクラスで普通に話せる友達も出来ていたから、
その延長で、それとなく話しかけたら
思った以上に気さくに返事をしてくれて驚いた。
人を外見で判断しちゃいけない。
思った通り、彼女は俺の知っているレイナだった。
それがわかると積極的に会話する勇気が湧いた。
外見は怖かったけど、
話せば返してくれるし理不尽な言動もなかった。

俺の父親は転勤がなくなった事もあって、
この街に戻って来たのを機にマイホームを購入した。
勿論、ローンだ。
以前、住んでいた賃貸のマンションが
空いてなかったせいもある。
そのマンションに近い物件を見つける事が出来たので、
結果的に再びレイナとは近所になった。

ちょうど、一学期最初のテスト期間中に
彼女と一緒に帰る事になった。
何でそうなったのか、きっかけは覚えていないが、
多分彼女から声を掛けてきたんじゃないかな。

俺達の家は学校から自転車で三十分くらいの距離にある。
バスも使えたけど、
経済的にも時間的にも自転車の方が良かった。
それで、二人で自転車を並べて話しながら帰った。
「ちょっと、お茶でも飲んでく?」
彼女の家の前に着くと俺に、そう言った。
俺は遠慮して断ったんだけど、彼女は
いいじゃん、寄っていきなよ」って
さっさと家の中に入ってしまった。
彼女の家は、俺の家と似たようなタイプの一戸建て。
小学校の頃には来た事がなかった。
俺達の住んでいる所は
駅から離れた住宅街にあったので、
似たような家やマンションが並んでいる。