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 悠姫ちゃんと出会ってから六年が過ぎ、俺は高校二年生になった。

初めて出会ったあの日ーー俺は悠姫ちゃんに話しかけた。

そして彼女のお母さんを探すことになり。紆余曲折ありエッチな事も……。

しかし童貞で甲斐性なしの俺にしては、結構大胆な事をしたと思う。下手すりゃ、

あの時点で逮捕され俺の人生が終わるところだったのだ。俺は二度とあんな事は、

絶対にしないと心に決めたのだった。悠姫ちゃんどうしているかな……。


 今日俺は友達と一緒にカラオケに来ていた。全国展開している有名な

チェーン店で、駅前に立地していることから繁盛しているようだ。

数時間して友人たちと別れ、帰りの電車に乗り込んで腰かける。

夕方という時間帯と下りの列車という条件もあってか、車内は混雑していた。

俺は混雑していることに対しての、このちょっとむせ返るものを抑えるために、

ipodを取り出してイヤホンを装着する。俺はZARDの『負けないで』を選ぶ。

力強いイントロの後ボーカルの透き通っていて、なおかつパワフルな声が

鼓膜を震わせる。そうしているうちに電車は次の駅に到着した。ドアが開き、

たくさんの人が降りていき、たくさんの人が乗り込んでくる。大勢の人が吊革に

つかまる。そして俺の前に一人の若い女の子が立った。年のほどは俺より幾分か

若いように見える。大人になりつつあるがあどけなさを残す顔立ちに、

どんぐりのようにまるっこい目をしていて、とても快活そうな印象を受ける。

髪は少し茶色が混じっているが、おそらく地毛であろう。どっかで似た人を見ている

ような気がするのだが……。俺が既視感に苛まれているうちに、電車は俺が降りる駅に

到着した。改札を抜ける。すると先ほどの女の子が後ろを歩いているではないか。

まあ別に赤の他人だし、何ら不思議は無いのだが、先ほどの既視感が一層強くなっている

のを自覚した。その時、あの時の言葉が脳内に響いた。


ーーーー「また会おうねーーハヤト兄ちゃん。また""遊ぼうね""」


俺は思わず振り返った。すると先ほどの女の子がびくっと肩を震わせ、俺を

怪訝そうに見つめる。そして。俺は勇気を振り絞って、その女の子に、声をかけた。

いつかの俺が、そうしたみたいに。

「もしかして。あなたは、悠姫ちゃんですか?」

その女の子は恐怖に顔を染めて答えた。

「……そうですけど。どうして私の名前を知っているんですか?まさかストーカー

ですか?だったら警察に通報しますよ?」

その女の子は、カバンからスマホを取り出す。どうやら本気で掛けるらしい。

って何やっているんだ俺は!?さっさと釈明しないと、警察のお世話になってしまう。

俺は、周囲の視線を集めていることを、あえて無視しながら、声を大にして叫んだ。

「六年前、あなたに話しかけたのは僕だ!俺が""ハヤト兄ちゃん""だ!」

「なに言っているんですか?あなたみたいな人が、あの""ハヤト兄ちゃん""なわけ、

ないじゃないですか。だったら証拠を見せて下さいよ」

その方法はとても幼稚だと思ってしまったが、俺は人を見る目には自信がある。

だから。一度『そう』と決めた人を間違えるはずはないのだ。

俺は、ゆっくり、一歩一歩、その女の子に近づいていきーーそして学生証を差し出した。

それを受け取った女の子は、視線を落として、驚愕といった風で目を見開いた。

「……ウソ……。あなたが、あの時の、ハヤト兄ちゃんだって言うの……?」

「……ああ」

俺は努めて明るく答える。するとその女の子は、次第にその瞳に涙を溜めていきーー。

やがてこらえ切れなくなったように、俺に抱き付いた。

「ハヤト兄ちゃん!!会いたかった!!」


 これが、悠姫ちゃんとの六年ぶりの再会だった……。

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