乳房を震わす和太郎の腰の律動に、甲高い真子の喘ぎ声が子犬の声のように応じていた。熱海湾に面した白亜のラブホテルの一室は、外の真夏の激しい日差しとは裏腹に窓は厳重に遮光されて、空調の冷気が二人のからだの熱気を溶かし込んでいた。美しい乳房の自由な揺れに嫉妬した和太郎に双の乳房を揉まれると、真子は苦し気な表情で白いからだをしなやかに仰け反らせた。真子の股間の小さな祠には、和太郎の長身の男根が深く沈み込み、それが祠から抜かれる毎に真子の透明感のある体液を愛の泉から汲み出して、あたりをぬめぬめと光らせていた。ベッドの脇には小型のカメラスタンドが立てられ、二人の行為の全てがビデオカメラに録画されていた。
 ビデオ録画は真子の夫の言い付けであった。ほぼ三十歳、年の離れた夫は性機能が低下して、変態的な刺激でもなければ勃起しなくなっていた。一方真子は若い性欲が退屈な日常の繰り返しの中で、不倫という手段で暴発しそうであった。それを感じ取った夫は、自らネットで選んだ男と寝させることで妻の性欲を管理しようとしていた。
 和太郎は三秒に一度の間隔で腰を大きく突き上げていた。それは単調な動きでは真子に面白くない人だと思われる危険があったからだ。真子は外見は年下のように見えるが、和太郎より四歳年上である。真子の性欲が常軌を逸するほど激しく濃いことを、二十四歳になったばかりの和太郎も感じ取っていた。たぐい稀な性欲の豊かな女性に初老の夫はついていけなかったのだろうか。子供もできず性欲を持て余す妻のために、夫は和太郎に助けを求めてきたとも考えられた。真子は和太郎の上で崩れ落ちるように俯せになると激しく和太郎にキスをして、和太郎のピンク色の舌を貴重な果肉を味わうように求めた。神野真子の夫がどんな顔の人かを和太郎は知らなかったが、ビデオカメラの中の淫靡な妻の行為を見て興奮する男の姿を実感を持って想像していた。
 体位を変えて和太郎が上になった。わざと真子の粘液が滴る結合部が見えるようにカメラの方に背を向けた。ベッドのシーツが真子の愛液で濡れていた。和太郎が突き上げると叫びに近い声で真子は歓びを露わにした。腰を衝動に駆られて激しく動かしながら、和太郎は打ち上げ花火の幻が見えたような気がした。ひとつ、またひとつと打ち上がる花火が、やがて連続で幾つも夜空に美しく咲いたとき天空全体が燦然と輝いて、若い和太郎は真子の中で至福の拍動を感じながら果てていた。思いを果たしゆっくりと真子から離れると、和太郎は真子の隣に仰向けになった。瞼の奥で花火の残滓が赤く煌めきながら暗闇に消えていくのを彼は感じていた。真子は起き上がり、まだ息づかいの荒い和太郎の顔を覗き込むようにして見ると「いっちゃった」と少女のような笑顔で言って、軽いキスを和太郎の鼻と唇にした。「ストロンチウム・・・」和太郎がぽつりとつぶやいた。「え?」真子が聞き返すと「何でもない」と和太郎。真子は頭を下半身に移動させ和太郎の今は硬さを失った男根を口に含み、愉し気にそれを吸った。尿道に残った体液を強く吸われて和太郎は一瞬苦しそうな表情をしたが、真子がゆっくりと頭を前後させると、彼女の口の中でしだいに和太郎の男根は硬さを回復した。普段はエクボで可愛く凹む真子の頬が、和太郎の亀頭に押されて時々丸く膨らむのが淫靡だった。真子は和太郎の若さに小さな驚きと喜びを感じながら、まだ自分の官能の渇きが完全には満たされていないこと、和太郎自身のことをもう少し知りたいと思ていることを自分に確かめていた。

 真子は家に帰ると、夫の治夫がビデオカメラをチェックし終わるるのを待たねばならなかった。和太郎との行為のあとシャワーを浴びたかったが、それは夫から固く禁じられていた。早送りで録画を見終わると「来なさい」と治夫は一言いい、二階のベッドルームに片手を取って忙しく真子を連れて行った。真子は寝室の大きなダブルベッドに押し倒されると、スカートを脱がされ黒の刺繍のパンティーを乱暴に脱がされた。その真紅の薔薇の刺繍が施されたポーランド製の黒の下着には、はっきりと和太郎の痕跡がその香りと共に白く残されていた。それを見た治夫の顔が嫉妬にゆがみ、みるみる赤くなった。激しい怒りで息を荒げながら、真子の大腿の間に顔を割り込むように入れてきた。頭髪の薄くなった治夫の頭部を両手で抑えるようにして、真子は仰け反った。自分の本能の激しさを罪深く感じながらも、真子は治夫の変態性に癒されていたのだった。真子が十代のころから気が付いていたこと、それは自分の体の中に野生の動物がいて、檻に閉じ込めておかなければ飢えを満たすために何でも仕出かしてしまうこと。幾つも鍵をかけていても、この動物は知らぬ間に巧妙にその鍵を開けてしまうこと。真子は檻の鍵をむりやり全部外してしまったのは夫の治夫であると思うことで、自分を許すことができていた。治夫は音を立てて真子の泉を啜っていた。それは真子の愛液と和太郎の「もの」が混ぜ合わせになった精のエキスだった。「一度手放した私を取り返そうと懸命になっている。嫉妬でおかしくなりそうになって」そう思うと真子は治夫が可愛かった。治夫の味わっているものはきっと苦味があるに違いない。そして和太郎の体液独特の、琵琶の実のような香りも多分している。和太郎と真子はつい1時間前まで海の中のつがいのイルカのように、本能の波に翻弄されながら暗がりの中で交尾を繰り返し繋がっていたのだった。真子は蜃気楼のような快楽のなかで、二人の裸体の男が自分のために命の火花を散らせて戦っているように思えて誇らしかった。しかし、治夫が真子の中に自身を挿入すると、明らかに硬さも大きさも和太郎のそれとは別物だった。この差は歴然としており、驚きですらあった。若さの失せた治夫をいたわるように身体をさすると、やがて治夫はクライマックスを迎えた。和太郎の時は中で勢い良く迸る男の精を感じることができるが、治夫ではそれがなかった。
 和太郎との逢瀬はその後も夫の指示で続いた。ただし、条件があって、和太郎との逢瀬の場所を毎回変えてほしいというものであった。その場所の設定は真子と和太郎に任せられていた。四度めは和太郎の住んでいるアパートだった。大学で化学の研究員だという和太郎の部屋は、本や専門誌が空のペットボトルなどと一緒に散乱していて、横になれるのはベッドの上だけという狭さだった。その部屋での交わりのあと、真子は和太郎に、この前にストロングとか言っていた言葉の意味を訪ねた。「ストロングじゃなくてストロンチウムね。花火の赤いい色は火薬にストロンチウムという金属が混ぜてあるせいなんだ」「そうなの。でもなぜその名前を呟いたの?」「花火が見えたんだ」「えっ?」「いっちゃってるとき花火がたくさん見えたんだ」真子は思わず吹き出してしまった。勉強に打ち込んでいるせいなのか、ずっと彼女もできないという和太郎を可愛いと思った。ただ「可愛い」という言葉は口に出さなかった。男はこの言葉を未熟だという意味で聞くことがあると思ったからだ。和太郎も体の中に野獣の檻を抱えているに違いない。その野獣をおとなしくさせるためにネットで相手を求め、自分に出会ったのだ。真子は電車の中にいる人たちや道を歩く人たちは、一体どうやって自分の中の野獣を管理しているのだろうと思うことが最近よくあった。顔を見ると、そんな野獣とは全く関係ないという表情をしている。しかし、人妻の何人に一人かは不倫相手と秘密のメールのやり取りをして、独身女性の何人一人かは、スマホに人には見せられない写真を隠しているのだ。
 その夜は和太郎のアパートに泊まり、自宅に帰ったのは昼近くであった。今度も避妊はせずに和太郎を受け入れた。いずれ和太郎の子を孕むことになるかもしれない。それは治夫も承知していることだった。治夫には別れた前妻との間にも子がなく、神野家の豊かな資産を継げる者はいなかった。夫婦の老後のためにも子供が必要だと考えた末の選択だったのだ。二人共どうしても子供がほしかったのだ。和太郎と逢瀬を繰り返すうちに、これが最良の方法だと真子は思えるようになっていた。運命に任せて和太郎の精を得て、やがて子を孕むとも、それを異常と思う感覚もなく三人は関係を続けているのだった。